研究概要 |
神経因性疼痛は神経ブロックや薬物治療に抵抗性のことが多い.これは脊髄や上位中枢に起きている可塑的な変化が原因であると考えられる.我々はラットで神経因性モデルを作り脊髄灰白質の神経細胞が変性を受けるかどうかについてしらべた.脊髄神経のL4,L5を細い絹糸で強く結紮し神経因性を作成した.痛覚の検査にはプランターテストによる熱逃避反応とvon Frey hairによる触覚刺激とを用いた.脊髄切片は手術後3週間で灌流固定し摘出した.脊髄の頚膨大部および腰膨大部で切片を作成した.染色にはssDNA抗体を用いアポトーシスの初期のシグナルを観察した.結果:神経損傷を起こした同側の腰髄の後角において反対側よりも多くの神経細胞にアポトーシスが観察された.これらの増加は両側と,も統計的に有意であった.腰髄前角細胞では軽度のアポトーシス増強がみられた.興味あることに頚髄においても後角の神経細胞に有意なアポトーシスの増加が観察された.疼痛テストでは手術を行った後肢においてアロディニアと熱痛覚過敏が観察された.考察:脊髄の灰白質における神経細胞のアポトーシスが神経因性疼痛で増加していることはいままでは報告されておらず興味ある所見である.特に神経損傷を起こした深頚の入力を受ける腰髄の後角において強いアポトーシスが観察されたことは痛覚過敏との強い関連を示唆する.しかし,頚髄の後角においても同様の変化が観察されたことは予想外であり,前肢においても痛覚過敏が存在していたことをうかがわせる.アポトーシスが神経損傷部位に限定しない広い範囲で観察されたこと,同側で強く観察されたことは,神経を介した機序となんらか液性の機序を介したもの両者の機序により起こっていることが想像される.このことはCOX-2の神経因性疼痛における発現が脊髄の広範囲の血管内皮や神経細胞で発現するという報告との関連において興味深い.
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