最近の分子生物研究からGABA受容体の構造解析が明らかにされ個々のサブユニットの遺伝子解析も進み各種のサブクラスが報告されている。本研究では、その中でもGABAa受容体のα4サブクラスに焦点を絞り、脳内GABA神経系に影響を及ぼす静脈麻酔薬の麻酔効果が不完全な場合と完全な場合におけるGABAa受容体α4サブユニットの変動、ならびに、脳梗塞によって生じる脳細胞死の発現におけるGABAa受容体α4サブユニットの変動を検索した。さらに、実験動物として後交通動脈が欠損しており、且つ、静脈麻酔薬に対する感受性が異なっているC57BI/6Jを用いた。(1)静脈麻酔投与において、正向反射が完全消失時における脳内各部位でのGABAα4サブユニットの変動を比較検索するとpropofolを投与した時のGABAα4サブユニットの発現は有意に高い部位が多かった。しかも、この発現の程度は吸入麻酔の完全麻酔時に発現するGABAα4サブユニットと比較しても明らかに高い値であった。一方、正向反射が完全に消失していない状態でのGABAα4サブユニットの発現はmidazolamやPentobarbital投与群において完全麻酔時と比較していずれも著明な上昇が認められた。殊に、midazolamでは脳の全部位で有意な差を持って高い発現が観察された。しかしながら、propofolは完全麻酔時と不完全麻酔時のGABAα4サブユニットの発現に相違が認められなかった。すなわち、propofolは脳幹網様体を中心としたα4サブユニットを有するGABA受容体に主作用点を有することが示唆された。しかし、midazolamはα4サブユニットを含むGABA受容体には特異的な結合剖位のないことが推測された。(2)6-0モノフィラメントを外頚動脈から挿入し中大脳動脈岐始部に留置し脳血流を遮断した結果、虚血24時間以降では明らかに脳障害を惹起した部位が梗塞側で60%以上に達した。興味あることに、GABAα4サブユニットの発現する部位を経時的に検索すると、発現が早期で有意な部位は損傷を受ける範囲は狭いことが判明した。総括すると、GABAα4サブユニットを含むGABA受容体に作用点を有する静脈麻酔薬は脳保護作用を有することが示唆された。
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