研究概要 |
脊椎損傷患者は、自律神経障害をきたすことはよく知られている.脊椎損傷患者は,急性期の治療により脊椎麻庫の範囲が受傷時より上方に進行し,あるいは下方に改善することがある。これは、受傷時に起きた損傷部位の浮腫の治療、呼吸循環系の治療、脊椎固定術の成否に影響される.頸椎レベルの麻痺の悪化は、脊髄ショックによる生命予後の悪化だけでなく急性期以降の患者生活の質を著しく阻害するため受傷後の呼吸循環管理、早期の脊椎固定術が重要であるとされている。心拍変動は,自律神経機能の評価法として確立しており心筋梗塞患者の生命予後判定に有用であることが知られている.動物による脊椎損傷モデルにおいて心拍の周波数解析で、脊椎損傷レベルの違いにより心拍の高周波(High Frequency, HF)成分、低周波(Low Frequency, LF)成分のパワーの低下,およびその回復過程が異なるとの報告がある.本研究では,頸椎損傷患者の急性期の心拍変動により、急性期の治療および脊椎疾患患者に対する脊椎固定術の評価を、HF、LF成分および日内リズムの変化で検討し以下の結果を得た。 (1)頸椎損傷患者は,受傷後心拍のHF成分・LF成分パワーが著明に低下し,心拍のゆらきが消失した。受傷後の心拍変動は、特徴のあるランプタイプ状の変化を示し自律神経障害の程度示すと示唆された. (2)急性期の治療により受傷時の脊髄麻痺レベルが改善した症例は、HF成分のパワーが改善した。これにより心拍変動が急性期治療の評価法となることが推察された。 (3)頸椎疾患に対する脊椎固定術は,手術後3日目にはHF成分、LF成分が低下するがその回復は速やかであり、自律神経系への影響は少ないと示唆された。 (4)脊椎固定術の術後、HF、LF成分の日内リズムが消失する症例があったが手術後第1日目より日内リズムは存在し以後消失しなかった。これは、脊椎固定術後では自律神経系の恒常性が損なわれていないことを示唆する. 以上の結果から頸椎損傷患者の急性期の呼吸循環管理、早期の頸椎固定術が受傷後の脊椎麻痺範囲の減少に有効であり、心拍の周波数解析によるHF, LF成分の変化が急性期治療の有効性の評価方法となる。
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