研究概要 |
塩酸トラマドール〔以下トラマドール〕は非麻薬性鎮痛剤で、その薬理機序としてはオピオイド受容体に作用することと同時にノルアドレナリンやセロトニンのシナプトゾームへの取り込み抑制が考えられている鎮痛薬であるが、しかしその詳細な薬理機序の検討は未だになされていない。また、鎮痛作用を目的として広く使用されているイミプラミンなどの抗欝薬もやはりノルアドレナリンやセロトニンのシナプトゾームへの取り込み抑制作用をもちノルアドレナリントランスポーターやカテコールアミンの分泌を抑制することがその疼痛抑制機序として考えられているが、トラマドールに関するノルアドレナリントランスポーターやカテコールアミンの分泌に関する報告はない。また最近、G蛋白結合受容体であるサブスタンス-P受容体をはじめとしたタキキニン受容体が落痛発生に関与しているという報告がなされ、トラマドールがサブスタンス-P受容体に対してもどのように作用するか興味がもたれるところであるが、トラマドールのサブスタンス-P受容体に対する作用は詳しく解析されていない。今回の研究においてはトラマドールの鎮痛効果及びその副作用の機序解明を詳しく探る目的で培養ウシ副腎髄質細胞およびアフリカツメガエル卵母細胞系を用いて、(1)トラマドールがカルバコールによるカテコールアミン分泌に対する抑制作用が有ることを明らかにした。(Shiraishi et al.,In press)(2)さらにトラマドールがノルアドレナリントランスポーターに対して抑制作用を持つことも明らかにした(Sagata et al.,In press)。またトラマドールの阻害形式は拮抗阻害を示し、^3Hデシプラミンの結合実験を行った結果、その作用部位はデシプラミンやケタミンの阻害部位と同じであることが明らかになった。(Sagata et al.,Inpress)(4)さらにアフリカツメガエル卵母細胞系を用いて、トラマドールがムスカリン受容体(M1)を抑制することが明らかとなった(Shiraishi et al.,2001)。今後は麻酔薬のターゲットであるタキキニン受容体(サブスタンス-P受容体、サブスタンス-K受容体)にいかに作用するかを検討する予定である(Minami et al.,2002)。これらの結果より、トラマドールの鎮痛作用機序としてノルアドレナリントランスポーターに対して抑制作用とムスカリン受容体(M1)への抑制作用が何らかの影響を与えていることが明らかとなった。
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