研究概要 |
前立腺肥大症などに伴う二次性不安定膀胱の発生機序に膀胱のムスカリン受容体やP2受容体の発現の変化が関与しているか否かをin vivo薬理実験で検討した。 ラットを用いて部分的尿道閉塞により二次性不安定膀胱モデルを確立した。蓄尿相における膀胱コンプライアンスや排尿反射以外の小収縮波については個体差が大きく評価が困難であったため、評価対象を排尿反射時の排尿筋収縮力とし、等容量性律動性膀胱収縮時の最大膀胱収縮圧を測定した。 ムスカリン受容体遮断薬としてatropine sulfateを、P2X受容体遮断薬としてPyridoxal-phosphate-6-azophenil-2',4-disulphonic acid tetrasodium salt(PPADS)を使用し、それぞれ総腸骨動脈から注入した。 最大膀胱収縮圧は,閉塞後4週群では対照群の約130%に増加した。また膀胱容量は約1.8倍となった。膀胱収縮の持続時間には変化がなかった。Atropine投与は最大膀胱収縮圧を対照群では約50%まで、閉塞群では約70%まで抑制した。Atropine投与下にPPADSを投与したところ,最大膀胱収縮圧は対照群ではほとんど変化しなかったが,閉塞群ではatropine投与前の約30%にまで抑制した。以上より、対象群では排尿反射における膀胱収縮にP2X受容体はほとんど関与していないが、閉塞膀胱では膀胱収縮力の約40%がP2X受容体を介するATP性収縮であることが示唆された。 本研究からは、前立腺肥大症においても尿道抵抗の増大に抗して、排尿筋は収縮力を増強させるが、その機序には排尿筋の肥大とともにP2X受容体を発現させてATP性収縮を増強させている可能性が示唆される。これらのことは、前立腺肥大に伴り不安定膀胱の治療に抗コリン薬以外、つまりP2受容体遮断薬などを応用する可能性を開くものと思われる。
|