研究概要 |
腸球菌性尿路バイオフィルム形成がもたらす有熱性尿路感染症および院内感染症の諸問題に対処するための方策を検討することを目的として本研究を遂行している。主要な検討課題は,複雑性尿路感染症から分離された腸球菌(Enterococcus faecalis)の病原性因子や薬剤耐性遺伝子に着目して分子疫学的・分子生物学的研究を行うことである。フェロモン(アミノ酸7-8のペプチド)に反応して菌体表面に凝集物質を発現するE.faecalisが知られている。発現した凝集物質はなんらかのメカニズムでバイオフィルム形成に関与すると孝えられる。その構造遺伝子であるasa1は,高頻度伝達プラスミド上にコードされていると報告されていたが,我々はE.faecalis V583株の全ゲノム配列の公開にともない検索した結果,2個のプラスミド上のみならず染色体上にも2箇所,計4箇所にコードされていることを確認した。当研究室保存株538株を解析した結果,439株(82%)がasa1保有株であった。前年度までの研究成果に基づいて,凝集に関与するasa1,ヘモリジン産生に関与するcylA,ゲンタマイシン耐性遺伝子aac(6')-aph(2")の3遺伝子すべてを保有している44株を選択して,詳細な解析を進めている。4箇所にコードされているasa1遺伝子のDNA配列には不変領域と可変領域がある。我々は新規プライマーの設計を行い,asa1遺伝子上の可変領域をRFLP(restriction fragment length polymorphism)でタイピングする方法を確立した。上記44株を解析した結果15タイプに分類されたが,既に報告されている3種の高頻度伝達プラスミド上のasa1と同一タイプであったのは,それぞれ1株づつ(計3株)であった。一方,ESP(enterococcal surface protein)がバイオフィルム形成に関与することが報告された(Appl.Envir.Microbiol 67:4538-4545,2001)ので,保存株131株を解析した結果,93株(71%)がesp遺伝子群保有株であった。本年度は,菌濃度依存的(quorum-sensing)に発現が調節されることが報告されたゼラチナーゼに関する研究にも着手した。保存株中約50%がゼラチナーゼ産生株であり,非産生株33株の解析を行っ結果,ゼラチナーゼ調節遺伝子を含めた23.9-kbの欠失が26株(79%)で確認された。
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