研究概要 |
【目的】CAPD療法は、不休的、連続的であるため、腹膜中皮細胞の軽度の傷害修復が繰り返されることによるサイトカインの産生過剰や、その産生制御機構が正常に機能しなくなり、線維化に移行するとの仮説がある。本研究では、腹膜中皮細胞の傷害修復時における各種サイトカイン産生の動態を明らかにする目的で、中皮細胞の化学的傷害モデルを作製し、同細胞の修復過程における各種サイトカインのmRNAの発現を検討した。 【方法】6 well microtiter plates内でsubconfiuentになった培養腹膜中皮細胞(Wistar系ラット大網より採取・単離)に1NNaOHを滴下し、一定面積で円形の無細胞領域を各wellに24箇所作成した。0、6、12、24、48、72時間培養後に、TGF-b1、VEGF、bFGF、HGF、FibronectinのmRNAの発現をRT-PCR法により半定量化し、傷害を加えない対照群と比較した。 【結果】傷害作成直後より無細胞領域の面積は経時的に減少し、72時間には傷害作製時の約2/3となった。TGF-b1、VEGF、bFGF、HGF、FibronectinのmRNAの発現は対照群、傷害群共に認められた。傷害群のTGF-b1、bFGFのmRNAの発現量は傷害直後で対照群より少ないが,その後増加し、72時間では、それぞれ対照群の1.53±0.11倍、1.31±0.27倍(N=3)となった。VEGF、HGF、FibronectinのmRNAの発現量は,傷害直後で対照群より多く,その後一旦低下するが,72時間では最大となり,それぞれ対照群の1.20±0.26倍、1.33±0.71倍、2.0±0.92倍(N=3)となった。 【結論】傷害を受けた腹膜中皮細胞はその修復過程において、TGF-b1、VEGF、bFGF、HGF、FibronectinのmRNA発現を促進した。これらの傷害修復過程が繰り返しは、サイトカインの過剰な産生をきたし、線維芽細胞の増加、細胞外マトリックスの過形成による腹膜の線維化に深く関与していると考えられる。
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