myb遺伝子ファミリーはA-myb、B-myb、c-mybからなる転写因子であり、c-mybはウイルス由来の癌遺伝子v-mybの細胞側の相同遺伝子として発見された。mybタンパク質は核内局在し転写因子として特徴的な構造を持ち、このタンパク質にはN末端に塩基性アミノ酸の繰返しからなる3つのドメインが存在する。このドメインをDNA結合部位として認識配列に結合し、その認識配列が存在するプロモーターの転写活性を調節する。c-myb遺伝子と相同性を持つ遺伝子としてA-myb、B-mybが見出された。われわれはB-myb遺伝子が細胞の増殖に関連する遺伝子であることを発見した。アンチセンス法を用いた遺伝子治療とは、特定のメッセンジャーRNA(mRNA)に対し相補的配列を持つアンチセンスDNAを用い、目的mRNAとアンチセンスDNAがDNA-RNA複合体を形成し特異的に遺伝子発現を阻害する方法である。睾丸腫瘍細胞の増殖に関連したB-myb遺伝子を抑制することにより、睾丸腫瘍細胞の増殖を抑制可能なのではないかとの仮説をたて、アンチセンスB-myb遺伝子による遺伝子治療の基本モデルの作成を試みた。われわれは、これらの問題点を解決するために共同研究者今西小比賀らが開発しだ核酸類縁体(BNA)アンチセンスmybを用いて研究を開始した。培養開始4日目で核酸類縁体antisenseB-mybを加えた細胞はコントロールの細胞に比較して有意にコロニー数が低下していることが確認された。核酸類縁体antisenseB-mybのうち2個の塩基をミスマッチさせたものを加えた細胞ではコロニー数の有意な低下は認められなかった。その他、モノフォリノアンチセンスオリゴヌクレオチドによるB-mybのいくつかの部位に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを合成し、これらアンチセンスオリゴヌクレオチドが細胞の増殖に及ぼす影響を観察した。モルフォリノアンチセンスB-mybを加えた細胞の増殖はモルフォリノアンチセンスB-mybミスマッチを加えた細胞の増殖に比較して有意な増殖抑制が観察された。モルフォリノアンチセンスA-mybを加えた細胞の増殖とモルフォリノアンチセンスA-mybミスマッチを加えた細胞の増殖の間では有意な差は認められなかった。このことからモルフォリノアンチセンスB-mybによりB-myb遺伝子発現を調節することにより細胞増殖抑制を惹起することができうると推測された。
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