昨年度までの実験によりバクテリア(チオバチルス)の増殖条件が判明し、またラットを用いた短期動物実験により尿路結石をこのバクテリアにより溶解できることが判明した。本年度はさらに臨床に役立つようにするため、カテーテルに付着した結晶の溶解方法、ラットを用いた長期実験モデルの作成を開発した。実験1. 臨床的に人から摘出したカテーテルを一度滅菌したのち、バクテリアと一緒にヒト尿中にて培養しながら溶解をこころみた。2週間の培養にて付着結石の約50%が溶解できた。燐酸カルシウム結晶はよく溶解できたが、燐酸アンモニウムマグネシウムの結晶は溶解できなかった。実験2. ラットを用いた長期実験モデルにより膀胱、腎臓の組織障害、尿路感染症の程度について検討した。腹腔内、腎臓および膀胱の組織学的検討では明らかな障害をみとめなかった。実験3. 臨床的に摘出された結石をラットの膀胱内に入れ、細菌による溶解を試みた。チオバチルスの栄養源であるイオウはチオ硫酸ナトリウムの形で腹腔内に一日おきに投与した。1ヶ月の実験モデルにより燐酸カルシウム結石においてはほぼ完全に溶解できることが判明した。シュウ酸カルシウム結石もわずかながら溶解されていた。ただし、尿酸結石、燐酸アンモニウムマグネシウム結石においては溶解できず、逆に結石の増大化を認めた。回収した結石を走査電子顕微鏡で観察したところ、結石表面に存在するThibacillus thiooxidansを確認した。細菌は、結石を溶解し、結石表面より中にもぐりこんでいるように見えた。この最近は結石に付着し硫酸を排出しながら結石を溶解しているものと推測された。以上より、一般の内服薬にて溶解不可能のカルシウム結石をこのバクテリアを用いて安全に溶解できることが判明した。
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