研究概要 |
1.可溶性変異型VEGF受容体導入による腎尿路性器癌に対する遺伝子治療の研究 変異型VEGF受容体遺伝子導入による抗腫瘍効果をマウスの腎細胞癌株RENCAならびに膀胱癌細胞株MBT2を用いて検討した。1)まずそれぞれの癌細胞のVEGF産生能を培養上清にて解析したところ、共にVEGFの産生を認めた。2)変異型VEGF受容体産生アデノウイルスを癌細胞に感染させ、この細胞を同系マウスの皮下に移植し抗腫瘍効果を解析したところ、共に腫瘍の増殖抑制が認められ、RENCAにおいては5匹中2匹で腫瘍の生者が認められなかった。3)RENCAが生着しなかったマウスにおけるRENCAに対する細胞障害活性は認められず、血管新生阻害だけでは抗腫瘍免疫が誘導できないことが示された。4)変異型VEGF受容体産生アデノウイルスを腫瘍移植部とは別の部位に感染導入させて、抗腫瘍効果を検討する治療モデルでは、RENCAの一時的な増殖抑制は認められたが、腫瘍の退縮は誘導できなかった。以上の結果は変異型VEGF受容体遺伝子導入単独での抗腫瘍効果とその限界を示すもので、免疫療法等との併用療法の可能性を示唆した。 2.血管新生阻害剤 現在、臨床応用されている有効な血管新生阻害剤はないので、IFN-αや5-FU等を血管新生抑制因子という見地から、進行腎癌に対してIFN-α,5-FU,Leucovorin,cimelidineの併用療法の臨床研究を現在まで37例に行い、治療後12週目の有効(CR+PR)率は約16%で、有効および不変までを合わせると約60%であった。ただ不変以上の症例では1年生存率83.3%、3年生存率56.4%と著明な生存期間の延長が認められた。以上の結果よりこの併用療法は進行腎癌に対する治療の一つのオプションになり得ると考えられた。 3.血中血管新生内子を標的とした診断への応用 当科で診断治療された腎癌患者の治療前後に採取された血清を用いて血管新生因子濃度を測定し、術前の血中VEGFまたはFGF濃度と病期との相関、また術後の再発、進行との相関を解析した。腎癌症例57例の治療前VEGF濃度は1.6-2101.5pg/ml(平均264.4pg/ml)、FGF濃度は0.4-9.1pg/ml(平均3.4pg/ml)であった。VEGF濃度およびFGF濃度ともに腫瘍最大径、TNM病期、組織学的異型度等との関連は統計学的に認められなかったが、静脈浸潤(+)の症例でVEGFの濃度は有意に高値であった。またマイクロアレイにて腎癌組織および非癌部組織における血管新生因子関連遺伝子発現プロファイルを解析したところ、腎癌組織においては,正常腎組織に比し,有意にVEGF並びにECGF1の発現の増加を認め、予後不良の患者では癌組織でのVEGF遺伝子の発現が増強している傾向があった。以上の結果は血管新生因子と腎癌の強い関連を示し、患者の予後を含めた診断への応用の可能性が示唆された。
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