研究概要 |
本年度は我々が確立した内側視索前野(MPOA)電気刺激モデルを用いて、男性ホルモン(testosterone)補充による勃起反応に対する影響を検討した。 加齢は勃起障害の最も重要な要因のひとつである。しかし加齢は多くの要因が関与する現象であり、加齢による勃起障害の要因を明らかにすることは容易ではない。加齢による勃起機能低下の要因としてtestosteroneの低下などの内分泌学的変化が推測されている。しかしtestosteroneレベルと勃起機能の関連はいまだ明らかではない。本年度我々が明らかにしたデーターはtestosteroneが中枢の電気刺激による勃起反応(陰茎海綿体内圧)に直接的に関与していることを示した。20週齢のコントロールラットのMPOA及び海綿体神経電気刺激による、海綿体内圧/血圧比は0.73±0.05、0.65±0.03、(平均±標準誤差)であった。20週齢のラットを去勢後2週、4週、8週においてMPOAの電気刺激による海綿体内圧は刺激前と比較し有意な上昇を認めず(ICP/BP比2週、4週、8週,0.14±0.01、0.13±0.01,0.12±0.02)、勃起反応は消失した。しかしながら海綿体電気刺激による海綿体内圧は、非去勢群と比較すると有意に低下するものの、刺激前と比較し有意に上昇していた(ICP/BP比2週、4週、8週,0.37±0.03、0.32±0.03,0.30±0.02)。これは去勢の影響が中枢においてより強く出現するものと思われた。持続注入ポンプを皮下に埋め込み100μ/dayのtestosteroneの補充を行うと中枢性の勃起反応の改善が認められた(ICP/BP比0.68±0.11)。現在検討中であるが50μ/dayのtestosteroneの補充ラットにおいては、MPOAの電気刺激による海綿体内圧は、100μ/dayのtestosteroneの補充と比較し低下が認められている。さらに勃起機能を維持するために、必要なtestosteroneレベルを検討中である。これらの結果は今後、加齢による男性性機能の低下に対するホルモン補充療法の有用性を検討する上で、貴重な実験的根拠となるであろう。特に勃起能を維持するためのtestosterone閾値を明らかにすることは、ホルモン補充療法の適応を明確にすると共に、治療をより安全にするものと思われる。
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