研究概要 |
前立腺肥大症(BPH)の排尿障害には前立腺が腫大して尿道を閉塞することによって起こる排出障害と膀胱機能障害による蓄尿障害がある。内因性アンドロゲンは前立腺腫大に関与することはすでに知られているが、膀胱機能への影響についてはあまり検討されていない。今回去勢によるアンドロゲン低下が膀胱平滑筋自律神経やその受容体にどのような変化を及ぼすのかを薬理生理学的手法で検討した。雄SDラット(1日週齢)を正常群と去勢群に分け、去勢後4週後に膀胱を摘出し平滑筋条片に対して等尺性実験(CchやATPに対する濃度依存性収縮と経壁神経電気刺激(HFS)による周波数依存性収縮)と等張性実験(HFSよる収縮速度と収縮力から単位平滑筋が発生する収縮エネルギー測定)を行い両群で比較した。各薬剤による濃度依存性収縮張力には両群間に有意差を認めなかった。一方EFSによる収縮張力は去勢群において低周波数域(2〜10Hz)で有意に低下した。しかし最大収縮張力には差を認めなかった。等張性収縮実験では加重が3gr以下で去勢群の短縮速度が有意に低下し、その単位平滑筋量の収縮エネルギーも正常群6.57±1.05×10^<-3>watt/g,去勢群3.18±1.15×10^<-3>watt/gと明らかに低下した。今回の検討では去勢すなわちアンドロゲンの低下は膀胱平滑筋受容体(ムスカリンやプリン)機能にはまったく影響しないことが判明した。一方低周波領域で収縮力が低下したことから膀胱自律神経障害とくにプリン作動性神経機能を障害することが示唆された。収縮エネルギーの低下はこの自律神経障害も関与しているものと推察されるが、膀胱平滑筋における収縮蛋白の相互作用あるいはATPの利用率の低下なども関与していものと考えられる。以上のことから前立腺ばかりでなく膀胱排尿筋はアンドロゲンの標的臓器であり、アンドロゲンの低下は排尿筋収縮力の低下に、その増加は収縮力の増す方向に働いているものと考えられる。
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