研究概要 |
NF-κBの活性化は炎症性疾患に重要な役割を担っている。私たちはタクロリムスと同様、カルシニューリンを阻害することにより免疫抑制効果を示すシクロスポリンAによって生じる腎障害時にNF-κBの活性化が生じることを観察した。そこで、本年度はタクロリムス慢性腎毒性におけるNF-κBの関与を検討する目的で、その阻害薬であるPyrrolidine Dithiocarbamate(PDTC)の効果を検討した。低Na食下で雄SDラットにタクロリムス(1mg/kg/day, s.c.)を投与した群(n=10)と、同時にPDTC(100mg/kg/day, 200mg/kg/day, gavage)を投与した群(各々n=8)、vehicle群(n=13)を作成し、42日後に腎機能の測定、腎組織学的検討ならびにgel shift assayにより腎皮質NF-κBのDNA結合活性を検討した。また、これらの変化に伴う遺伝子発現の検討もあわせて行った。タクロリムス投与群ではvehicle群に比ベクレアチニンクリアランス(Ccr)は有意に低下し、また腎組織では尿細管萎縮、間質の縞状線維化がみられた。NF-κBのDNA結合活性は著明に亢進し、腎間質においてマクロファージ・単球の指標であるED1陽性細胞が有意に増加していた。PDTC投与により用量依存性にNF-κBのDNA結合活性が抑制された。同時にCcr有意に改善し、尿細管萎縮、間質の線維化、間質の単核球の浸潤は用量依存的に抑制された。遺伝子発現ではNR-κBに制御される単核球走化因子のMCP-1がPDTC投与群で有意にその発現が抑制され、さらに線維化関連遺伝子であるTGF-β、PAI-1、TIMP-1、collagen-1も同時に抑制された。以上の結果よりタクロリムスによる腎毒性発症にはNF-κBが関与している可能性が示唆された。
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