タクロリムスは1989年にはじめて肝移植例に臨床使用されて以来、今日に至るまで急性拒絶反応に対する優れた予防効果によって膵・腎をはじめとする各種臓器移植の場で世界的に使用されている。しかしながら、本剤の最も重大な副作用として腎障害が問題になっている。本研究プロジェクトでは免疫抑制薬タクロリムスによる腎血管収縮を主徴とする急性毒性ならびに尿細管間質線維化を伴う慢性毒性の発症のメカニズムを分子生物学的に解明することを目的とした。タクロリムス投与により腎皮質でエンドセリンー1およびレニンの遺伝子発現が亢進することを初めて明らかにし、これらの因子が腎血管収縮に関与する可能性を示唆した。さらにcDNAマクロアレイを用いることでタクロリムス投与により特徴的な遺伝子発現プロフィールの変動が観察できた。一方、タクロリムスによる慢性の腎毒性については次のような結果が得られた。タクロリムスを減塩食下にラットに長期投与することによりマクロファージの浸潤を伴う腎間質の線維化が認められた。同時に転写因子のひとつで炎症に深く関与することが知られるNF-kBのDNA結合活性が増加した。一方、NF-kBの阻害剤であるPDTCはNF-kBの活性化を抑制すると共にタクロリムスによるマクロファージの浸潤ならびに腎線維化を抑制した。以上の結果よりタクロリムスによる慢性腎毒性発症にはNF-κBが関与している可能性が示唆された。
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