研究課題
多発性の腎細胞癌の発生機序を解明する方法として散発性腎細胞癌の約50%に認められるvon Hippel Lindau(VHL)病腫瘍抑制遺伝子の遺伝子変異を指標に解析を行った。多発しているおのおのの腫瘍からDNAを抽出し、ダイレクトシークエンス法によってVHL病腫瘍抑制遺伝子の3つのエクソンの変異を検索した。多発性の腎細胞癌を認めた4症例を検索したところ症例1では主病巣ではVHL病遺伝子の変異を認めなかったのに対し主病巣以外の病巣(サテライト病巣)ではcodon167でCGC→CCGのmissense変異を認め、ArginineがProlineになっていた。症例2では主病巣ではVHL病遺伝子の変異を認めなかったのに対しサテライト病巣ではcodon185でTAC→TAGのnonsense変異を認め、Tyrosineがstop codonになっていた。症例3では主病巣ではcodon133でACT→CTの1塩基欠損が認められたのに対し、サテライト病巣ではVHL病遺伝子の変異を認めなかった。症例4では主病巣、サテライト病巣で共に変異は認めなかった。以上の結果より、主病巣とサテライト病巣に変異が共通した例がないため、主病巣と同一クローンの細胞が転移によってサテライト病巣を形成したと考えられる根拠はなく、むしろ主病巣とサテライト病巣とは独立して発生したものと考えられた。サテライト病巣が転移巣ではないと考えられるとサテライト病巣が予後不良を示唆するものではなく、積極的な外科的治療が推奨される。現在普及が顕著である腎保存を目的とした腎部分切除術あるいは腫瘍核出術の適応が考慮されるものと考えられる。
すべて その他
すべて 文献書誌 (2件)