研究概要 |
癌の転移・浸潤過程において癌細胞の周囲間質への浸潤、血管新生に重要とされ、近年遺伝子構造が明らかにされあヒトヘパラナーゼの尿路癌の切除組織を用いてヒトヘパラナーゼ蛋白およびmRNAの発現を検討した。その結果、浸潤癌では非浸潤癌(表在癌)に比べて(68% vs 19%,p=0.0001)、またhigh-gradeのものはlow-gradeのもの(79% vs 29%,p=0.0001)に比べて有意にヘパラナーゼの発現は高かった。特に同一癌組織でも癌の浸潤先端部におけるヘパラナーゼ蛋白およびmRNAの発現が強いことが示された。これらヘパラナーゼの発現は他のマトリックスメタロプロティナーゼ分解酵素(MMP-2,MMP-9)に比べて有意に高く、またヘパラナーゼの発現は尿路上皮癌患者の重要な予後因子であった(P=0.0015)。更に、ヒト腎細胞癌の浸潤・転移におけるヘパラナーゼ発現の意義を外科的に切除し得たヒト腎細胞癌組織を用いて検討した。血行性遠隔転移を有する例のヘパラナーゼ蛋白およびmRNAの発現は転移を有さない例に比べて有意に高かった(56% vs 19%,P=0.0387)。 しかし、いわゆるstageT3(浸潤癌)例での発現はT_1/T_2(非浸潤癌)例に比べて有意差を認めなかった(50% vs 33%,P=0.6725)。またヘパラナーゼの発現を認めるものは認めないものに比べて予後不良であるが、有意ではなかった。ヘパラナーゼは膀胱癌の浸潤・転移および血管新生に非常に重要な役割を演じており、この作用を阻害することが膀胱癌の浸潤・転移および血管新生を抑制する可能性が示唆された。しかし、同じ泌尿器科領域の悪性腫瘍のうち腎細胞癌の浸潤・転移におけるヘパラナーゼの重要性は限定的であった。 今後、膀胱癌細胞をマウスに移植し、骨転移、肺転移モデル作成したうえで、ヘパラナーゼ阻害剤(スラミジ系)が転移抑制効果を示すか否か検討を重ねる予定である。
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