研究概要 |
培養ラットセルトリ細胞(SC)におけるNOS発現とNO産生に関する実験では,幼若ラットの精巣からSCを分離し,二槽培養系において無血清培養した.未処理のSCが産生する自発的NO量は2日間で16.9±0.7nmol/ml/well程度で,上槽(8.0±0.3nmol/0.5ml/well)と下槽(8.9±0.5nmol/0.5ml/well)へほぼ同程度(上層/下層比=0.92±0.03)に産生/放出されていた.これは,SCが定常的にcNOSを発現して生理的NOを産生している事を示すもので,現在,SC中のNOSアイソフォーム(bNOSあるいはeNOS)について検討中である.これに対して,リポ多糖(LPS:1μg/ml)を添加してSCにおけるiNOSの誘導を介したNOの過剰産生を試みたが,未処理SCとの間に有意な差を認めなかった(16.3±0.8nmol/ml/well,上層/下層比=0.93±0.03).このことから,精製SCにおけるiNOSの誘導にはLPS単独刺激では不十分である事が理解でき,他のサイトカイン類(TNFα,IL-1,IFNγなど)によるiNOS誘導の検討が必要である.一方,このSC二槽培養系にNOドナー(NOC18:100μg/ml)を添加し,外因性NOの影響を検討したが,発生したNOはSC層の電気抵抗値(未処理SC:25.5±2.0Ω/0.64cm^2,NOC18処理SC:25.7±1.4Ω/0.64cm^2)に有意な変動を与えず,また,SCによる総トランスフェリン(TF)分泌量(未処理:512±34ng/ml,NOC18処理:544±31ng/ml)にも影響しなかった.しかし,TFの分泌量は下槽側へ有意に亢進し,上下槽のTF濃度比の低下(未処理SC:1.86±0.22,NOC18処理SC:1.47±0.08)が認められた.これらの事から,精巣において,過剰のNOは精巣上皮細胞のある種のタンパク質の極性分泌機能の変調を惹き起こし,以後の正常な精子形成過程に少なからず病態生理学的影響を与える可能性が示唆された.
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