研究概要 |
昨年度までに,培養ラットセルトリ細胞(SC)を用いた実験から,SCの自発的NO産生が認められたが,前炎症反応誘導物質であるリポ多糖(LPS)によってNO産生の亢進は惹起されない事を確認した.また,培養SCに対してNOドナー(外因性NO)を添加した時,SC単層の電気抵抗値やSC分泌タンパク質であるトランスフェリン(TF)の総分泌量に変化は観られなかったが,TF分泌の方向性(極性分泌)は基底方向へと有意に亢進される事が分かった.これらの事から,精巣において,過剰のNOは精巣上皮細胞のある種のタンパク質の極性分泌機能の変調を惹き起こし,精子形成過程に少なからず病態生理学的影響を与える可能性が示された. 本年度は,SC層の透過性を司る密着帯結合(tight junction : TJ,血液-精巣関門)に関連した分子群がNOによってどのような動態を示すのかを,特異的抗体や化学反応物質を用いて免疫細胞化学的/細胞化学的手法によって検討した.その結果,正常SCにおけるoccludinとZO-1の局在は,細胞質外周の細胞間接着部にハチの巣模様状に認められ,また、actinの局在もこれらに類似していた.これに対して,NOドナー(NOC18/200μM)添加後24時間目には,occludin, ZO-1のハチの巣模様の整然とした局在は部分的に,あるいは完全に崩れていた.その一方で,actinの局在自身には顕著な差を見出せなかった.以上の結果から,精巣における急性,あるいは慢性の病態時にセルトリ細胞以外の細胞(例えばライディッヒ細胞など)によって産生されるであろう過剰のNOは精巣上皮細胞のTJ関連タンパク質の崩壊をもたらし,血液-精巣関門の変調を惹き起こすと共に,以後の正常な精子形成過程に重篤な影響をもたらすものと考えられる.
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