研究概要 |
培養幼若ラットセルトリ細胞(SC)の実験系を用い,セルトリ細胞におけるNOSの局在性とNO産生の動態,そして,セルトリ細胞の形態や機能に対するNOの影響を細胞生物学的,免疫組織化学的,生化学的観点から検討し,以下の研究成果を得た. 1.SCは自発的にNO産生をしている事(多分,cNOSに依存する事),2.リポ多糖(LPS)の添加によってNO産生は亢進されない事(実験条件下ではiNOS誘導が起こらない事),3.外因性NO(NOC18/100μM)を添加した時,SC単層の電気抵抗値は変動しない事,4.外因性NOによって,SC分泌タンパク質の総分泌量に変化は観られないが,トランスフェリン分泌の方向性(極性分泌)は基底方向へと有意に亢進される事,5.SCの細胞間接着装置を構成するタンパク質(occludin, Zo-1)の局在は,細胞質外周接着部にハチの巣模様状に認められ,また,actinの局在もこれらに類似している事,6.NOC18(200μM)の添加後24時間目には,occludin, Z0-1のハチの巣模様の整然とした局在は部分的に,あるいは完全に崩れる事,7.NOC18(400μM)の添加後48時間目で,SCにおけるoccludin, ZO-1の発現量はそれぞれ,未処理対照群(100%)の81%,49%にまで減少していた事,などを明らかにし,精巣における過剰のNOは,精子形成過程に少なからず病態生理学的影響を与える可能性を示した.この事は,SCの細胞間接着装置を構成するタンパク質が,過剰のNOによって局在性ばかりではなく,その発現量にも変調を来す事を示している. 以上の結果を総括すると,精巣における急性,あるいは慢性の病態時に精巣内で産生されるであろう過剰のNOは,精巣上皮細胞のタンパク質分泌極性の変調や,細胞密着帯関連タンパク質の脱制御をもたらし,血液-精巣関門の崩壊を惹き起こすと共に,以後の正常な精子形成過程に重篤な影響をもたらす可能性が示唆された.
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