研究概要 |
妊娠・産褥時における母体の代謝が非妊娠時に比し,大きく変化するが,これは妊娠時の胎児発育および産褥期の授乳において合目的的な変化と言える.中でも糖代謝と脂質代謝の変化は著しい.我々は妊娠時のインスリン抵抗性と脂質の関連性について,まず妊娠時から産褥期にかけての母体ラットの脂肪量の激減に注目し,この変化に何が関与するかについて検討した. まずアポトーシスが脂肪量減少に関与するかについてDNA ladder法を用いて検討したところ,アポトーシスの関与は否定された.次にアポトーシスに関与すると報告されている脂肪組織が産生するadipocytokinesであるTNF-αおよび脂肪分化誘導因子であるPPAR-γ 1/2の遺伝子発現についてラット腹腔内脂肪を用いて検討した.その結果,妊娠時の脂肪組織におけるTNF-αおよびPPAR-γのmRNAレベルに変化を認めなかった.すなわちこれら脂肪細胞の分化に関与する因子の遺伝子発現は変化なく脂肪量への直接的関与は否定された。 さらに脂肪細胞の分解および脂肪合成に関わるhormone sensitive lipase(HSL)やlipoprotein lipase(LPL)の活性変化を妊娠各時期において検討した.その結果、LPL活性は妊娠初期より中期にかけて増加したが、妊娠末期は対照群とほぼ同じレベルであった。一方、HSL活性は妊娠中期より増加し、分娩直後まで維持された。すなわちLPL、HSLが妊娠中増加し、妊娠初期はLPL優位、妊娠末期〜産褥期はHSL優位の増加であることより、リパーゼが妊娠・産褥期の母体の体脂肪量変化に影響を及ぼしているものと考えられた。これらの現象は妊娠時の変化である妊娠初期より中期の同化と末期の異化を説明できるものと考えられる。現在ここまでの結果を論文発表した。ただし、PPARやレプチンがこれら酵素の発現を間接的に調節している可能性もあり、今後さらなる検討が必要である。 また遊離脂肪酸の各種糖代謝関連酵素遺伝子発現への影響について検討する予定であったが、時間の関係で実験を進めることができなかった。今後必ず行う予定である。
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