前年度、ヒト胎盤組織には4種のミオシン重鎖アイソフォーム((1)非筋型ミオシン重鎖[MIIA]、(2)胎児型ミオシン重鎖[MIIB2]、(3)平滑筋1型ミオシン重鎖[SM1]、(4)平滑筋2型ミオシン重鎖[SM2])が発現していることを報告した。今回、それらのアイソフォーム及びその組成が、血管や血小板、大脳、小脳等の既にそのアイソフォーム及び組成がよく調べられている組織のもの、ならびに臍帯等の未確立の組織のものとどのような関係にあるかをそれぞれのアイソフォームに特異的なモノクローン抗体を用いて調べた。胎盤のMIIAアイソフォームは、大脳、小脳、肝臓、血小板等の成人非筋組織の同アイソフォームとの諸抗体に対する反応性や分子量等に違いが認められなかった。また、胎盤のSM1アイソフォーム及びSM2アイソフォームについても成人平滑筋組織のものと違いは認められなかった。胎盤のMIIB2アイソフォームについても、大脳や小脳の同アイソフォームとの違いは認められなかったが、胎盤にはMIIB1アイソフォームは検出されなかった。12週胎児の肝臓及び腸管には12週胎盤と同様に比較的高濃度のMIIB2アイソフォームが発現されていた。なお、同胎児の肝臓及び腸管には、それぞれ多量のMIIAアイソフォームとSM1アイソフォームが含まれていた。一方、40週臍帯ではSM1アイソフォームは少量しか含まれず、SM2アイソフォームが多量に含まれていた。これは、胎児や成人の他の平滑筋組織とは異なった結果であり、胎児の動脈管での結果と一致する。また、40週胎盤のアクチンアイソフォームの組織内分布を調べたところ、α-アクチンはミオシンSM1アイソフォームと同様に、主として絨毛及び幹絨毛の血管平滑筋細胞に分布し、血管外の平滑筋様繊維芽細胞にも少量分布していた。一方、β-アクチンはミオシンMIIAアイソフォームと同様に血管内皮細胞及び血管外組織に分布したが、血管平滑筋細胞には含まれていなかった。これは、胎盤の血管平滑筋細胞には非筋型ミオシンのみが多量の発現され、非筋型アクチンがほとんど発現されていないという、極めてめずらしい例である。
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