胎盤組織の増殖と分化におけるミオシンならびにアクチンの役割を明らかにするために、満期ならびに諸成長段階の胎盤組織中に幾種類のミオシンおよびアクチンのアイソフォームが、それぞれどの程度の量、そして、どの種の細胞に発現されているかを調べた。満期胎盤には非筋肉型ミオシン(MIIA)、平滑筋1型ミオシン(SM1)、平滑筋2型ミオシン(SM2)及び脳胎児型ミオシン(MIIB2)の4種のミオシンアイソフォームが発現されており、それぞれ約65%、15%、15%、5%を占めていた。MIIAは血管外組織と血管組織の双方に分布し、ことに血管組織に高濃度に存在した。SM1は、主として血管組織に分布したが、一部少量は血管外組織にも点在した。胎盤にはβ非筋型アクチンとα平滑筋型アクチンが発現されており、それぞれ約70%と30%を占めた。γ平滑筋/非筋型アクチンは微量であった。β非筋型アクチンとα平滑筋型アクチンは、それぞれ主として血管外細職と血管組織に分布した。10〜20週の初期〜中期の胎盤ではMIIAが約70%、MIIB2が約20%を占め、SM1とSM2は10%以下であった。これらのアイソフォームの存在比は同時期の胎児の肝臓組織のものと類似するものであった。この時期の胎盤ならびに肝臓ではMIIA2が活発に機能しているものと推定される。その後、MIIB2の相対濃度は、胎盤では徐々に低下するが肝臓では低下しない。従って、MIIB2は胎盤組織の基本構造の構築と分化に関与し、増殖には直接関与しないものと推定される。さらにMIIB2の組織内、細胞内分布を調べる必要がある。これらの研究結果は、胎盤の増殖や分化ならびに病態のメカニズムを理解するための今後の研究の基礎となるものと考えられる。
|