研究概要 |
Teicherらが担癌マウス内で樹立したアルキル化剤耐性乳癌細胞株はin vitroの細胞培養系ではその薬剤抵抗性を発現できない(Science,1990)が、我々は三次元培養系でこの耐性株が強固な細胞集合体(Spheroid)を形成し,in vivo同様の薬剤抵抗性をin vitroでも発現しうることを報告した(PNAS,1993)。細胞集塊の三次元構築の変化に伴って発現するこの薬剤耐性遺伝子の単離を本研究の目的とした。 単層培養ないしは三次元培養の条件下で薬剤耐性株と感受性株よりRNAを抽出し、Differential display解析を行い、薬剤耐性株の三次元培養下においてのみ強発現する5つの遺伝子を確認した。全て既知の遺伝子であり、内2つはaldehyde dehydrogenase-3(ALDH-3)とglutathione S-transferase mu (GST-mu)遺伝子であった。ALDH-3はヒト癌細胞において、ダイオキシンやベンゾピレンなどの細胞毒により誘導される性質を有し、サイクロフォスファミド耐性株におけるその発現亢進が報告されている。GST-muは細胞外よりの変異原や細胞毒に対する細胞自身の防御過程において、その発現が誘導される酵素として知られるGSTのアイソエンザイムであり、化学発癌により生じた腫瘍やアルキル化剤耐性癌においてGST-muがその耐性機構に関わっていることを示唆した報告もある。 今後はアルキル化剤耐性のヒト癌細胞においてもSpheroidの形成時に特異的に上記遺伝子が高発現してくるのか、およびそれが実際に薬剤耐性をもたらしているのかについて、遺伝子導入実験も含めて検討する予定である。特にヒトの癌の中でも卵巣癌は化学療法後に抗癌剤耐性を獲得し易く、かつ腹水中ではSpheroidを形成して存在することが多いので、この癌腫をモデルとして更なる研究を進めたい。
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