妊娠中期の子宮筋は非妊娠の子宮筋に比較し、L-arginine-NO-cGMP経路の活性が亢進し、妊娠後期に向かって減弱していた。このことはL-arginine及びNOによる子宮筋の感受性、さらにiNOSmRNAの発現、NOx産生量、そしてphosphodiesterase Vによる子宮筋の感受性の実験で証明された。さらに胎盤もNO産生に重要な働きを果たしていた。さらに、Lipopolysaccharide(LPS)を投与したiNOSノックアウト(iNOSKO)マウス子宮筋を用いて、PGE2産生と筋収縮反応に対するNOの影響を検討した。(1)LPSはNOによる子宮収縮抑制反応を減弱させた。(2)LPSはPGE2産生を増強させたが、この機序にはiNOSを介さない。(3)iNOSKOマウスの子宮収縮反応はLPSによって影響されなかったことから、LPSによる子宮収縮増強作用はiNOSを介した子宮収縮であると考えられる。さらに、妊婦の血清中NOx濃度も動物実験を裏付けるように、妊娠中期にNOの産生亢進が認められ、切迫早産症例で有意にNOx濃度の低下はNO産生障害が切迫早産の原因の一つである可能性が示唆された。それらの患者にNO tapeを投与すると、NOx濃度が上昇し、妊娠期間の延長がはかられた。以上のことから、L-anginine-NO経路は妊娠中期にNOの産生が亢進し、早産予防、妊娠維持に働き、妊娠後期に向かって減少することは分娩発来に関与すると考えらる。 今回、NOとPGsが子宮筋収縮の調節機構にどのように関与しているかを検討し、さらに、NOドナーの臨床応用について試みた。今後妊娠子宮に部位指向した、NO放出薬の開発は新しい切迫早産の治療薬となり、全分娩の約10%を占める早産児(未熟児)出産の減少に大きく寄与するものと考える。今後もこのようなテーマについての研究は継続の予定である。
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