1.精子染色体断片化の組織化学的観察:TUNEL法による染色体nickの検出を試みた。始めに染色体nickの陰性標品を得るため、精液を99%Percoll撹拌密度勾配法、swim up法により分画し、1.13g/ml以上の密度を有する運動精子を分離した。常法に従いTUNEL法による染色を行い、nickをFITCラベル化し、PIで対比染色を行った。nick陽性精子は緑色、陰性精子は赤色蛍光を発する。従来の報告では、FITC/PI2重フィルターを用いる観察が行われたが、定量的観察には両者の高感度CCDカメラによる個別観察、画像合成が不可欠であることが明らかとなった。精製標品のTUNEL陽性比率は1.0%以下であった。本法により、精子精製によって染色体断片化精子排除の可能性が示され、さらに精子精製条件を検討している。TUNEL法により129精液標本のTUNEL陽性率を観察し、精液所見との相関を検討した。WHO基準で精液所見を分類した結果、normozoospermiaは9.4±6.2%(n=73)であったのに対し、oligo-asthenozoospermiaでは(25.9±16.0%(n=24)と有意に高値であった。 2.細胞電気泳動による精子染色体断片化の観察:精子をagaroseに包埋し、界面活性剤、酵素処理後、電気泳動した。定量性の向上を目的として実験条件を検討した結果、既報の泳動条件(40V、5分間)では疑陽性の結果が得られることが明らかとなり、精製標品を用いた対比観察により5V、40分間の泳動条件で定量的結果が得られることが明らかとなった。染色後、サイバーゴールドを用いてDNA染色し、蛍光像を顕微用観察した。精液中の精子は染色体断片化に起因するコメット像を示す精子を認めた。100症例の精液所見との相関を検討した結果、所見の低下に伴いコメット陽性像の増加を認めたが、TUNEL陽性率とは相関せず、ヒト精子DNA損傷の観察には両者の同時測定が重要であることが示唆された。 3.血漿、精漿中にはアデニルブリンが存在した。血漿ではATPが約50%を占め、アデノシン、cAMPは検出限界以下であった。一方、精漿ではアデノシンが約57%を占め、ATPは1%以下であり、両者のアデニルブリン構成比は大きく異なっていた。
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