成人の冠動脈疾患において、冠動脈狭窄または閉塞が解除された後も心筋血流が再開しない現象、いわゆるNo Reflow現象が冠動脈血行再開後の心機能の回復をさまたげ心筋障害を惹起する。このNo Reflow現象の本態は微小血管障害であると想定されているが、アデノシン製剤やジピリダモール等のアデノシン作動薬の微小血管障害抑制機構における役割が注目を集めている。 胎児の血中アデノシン濃度は成人に比較するとは数倍高く、しかも胎児および新生児心筋では冠動脈狭窄および閉塞などの病態が発症することはきわめて稀である。本研究では胎児における心筋の血流維持機構におけるアデノシンの役割を解明することを目的として実施し、以下の結果を得た。 (1)羊胎仔冠動脈血流量の経食道超音波検査によるの評価 羊胎仔慢性実験モデルにおいて繰り返し臍帯遮断による虚血・再還流ストレスを加え、経食道的に胎仔心筋の冠動脈血流量の変化を検討した。その結果、胎仔は成人と比較すると、虚血・再還流時の冠動脈血流量の変化が少ないことが明らかになった。 (2)胎仔心筋におけるNo Reflow現象の解明 繰り返し臍帯遮断による虚血・再還流ストレスを加え、胎仔冠動脈血流量の変化、心筋コントラストエコーによる心筋機能障害評価を実施した。また、胎仔心房、心室血中アデノシン濃度およびアデノシン産生酵素である5'ヌクレオチダーゼ活性および血小板凝集のマーカーであるP-selectinを測定した。同様の実験をアデノシン受容体拮抗剤であるテオフィリン前処置群においても実施した。 その結果、虚血・再還流ストレスに対し、胎児心筋ではアデノシン産生酵素活性が上昇し、血小板凝集抑制し、さらに胎児冠血管のトーヌスを減少することでNo Reflow現象を制御し、微小血管障害抑制機構に関与していることが示唆された。
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