研究概要 |
【目的】妊娠中毒症の発症に関連する母体因子がどのような機序で胎児側胎盤循環に影響を及ぼしているかを母児両側を独立して灌流するヒト胎盤灌流法ならびに胎盤絨毛膜板血管のリング標本を用いて明らかにすることが目的である.今年度は,endothelin-1(ET-1),serotonin(5-HT)の胎盤循環に及ぼす影響についての検討を行った. 【方法】ヒト胎盤の灌流は既に報告した方法(大橋ら,1995)により行った.灌流液はMedium199を使用,母体側灌流液は5%CO_2+95%O_2によりoxygenationし8ml/minの速度で,胎児側灌流液は5%CO_2+95%N_2によりdeoxygenationし3ml/minの速度で,各々定流量ポンプにより灌流を行った.胎児側動脈に圧トランスデューサーを接続することにより,胎児側灌流圧をHewlett-Packard 78432Aにてモニターした. 【成績】一酸化窒素(NO)合成酵素阻害剤であるL-NAMEまたはcyclooxygenase阻害剤であるindomethacinの投与時のET-1,5-HTによる胎児側灌流圧の上昇の程度は,単独投与時の上昇に比べ,有意に高くなった.このことは,ET-1,5-HTによる血管収縮時に血管内皮細胞より血管弛緩物質であるNOやPGI_2が放出され,血管のトーヌスをコントロールしていることを示している.特に5-HTによる収縮の際にNOやPGI_2の関与が大きく,L-NAME投与によりNO合成を阻害した時の5-HTによる灌流圧の上昇は,単独投与時に比べ著明に上昇した. 【結論】妊娠中毒症時にはET-1,5-HTともに血中濃度が上昇するが,生体内では5-HTの濃度の方が高いため,妊娠中毒症のようなNO産生が抑制された状態では,5-HTが高血圧の主因であることが示唆された.
|