研究概要 |
本研究の結果、ヒト胎盤胎児側循環に影響を及ぼす因子として、エタノールについて詳しく検討できた。エタノールの血管収縮作用は、Ca^<2+>-channel agonist様作用と小胞体内のCa^<2+>放出作用が関係していること,さらにK^+-channel様作用があることも示された.NOとPGsとの関係については、血管リング標本による検討では影響を認めず、灌流法で影響したことより、血管以外の胎盤組織から産生されたNOがエタノールの昇圧反応を抑制し、PGsは昇圧反応を増強していることが推測された。また、通常の高血圧ではあまり重要な意味を持たないserotoninが、NOの合成阻害などの条件が重なると実験的には強力な血管収縮物質であるET-1とほぼ同濃度でも収縮を認めることを明らかにした。妊婦ではserotoninの血中濃度はET-1よりはるかに高濃度であり、妊婦および胎盤循環での本物質の重要性が示された。さらに、NO合成を阻害する生体内物質であるADMAは妊娠中毒症発症機序としてはもちろん、IUGRの主因になっている可能性が示唆され、今後さらに検討していく必要がある。さらに胎児側胎盤循環に影響していると考えられる物質について今後検討していく予定である。 本研究の最終目標であった"妊娠中毒症などの胎児側胎盤循環障害の病態を明らかにし、胎児側胎盤循環障害の改善方法すなわち治療法を明らかにすること"にはまだほど遠い結果である。今後は、妊娠中毒症患者の胎盤を使用した検討や、各因子の妊婦・臍帯血中濃度などをさらに検討し、胎児側胎盤循環障害の原因を明らかにするとともに、その改善法すなわち治療法の検討を行っていく予定である。
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