蝸牛は虚血などの障害因子に易受傷性であると考えられ、また、一度障害を受け聴力の低下をきたした蝸牛は一般に回復が困難であるとされる。 代表的な蝸牛障害因子である強大音あるいは一過性虚血に対して、薬剤による蝸牛の保護あるいは障害の軽減が可能であるかの検討を行った。 強大音による障害モデルでは、一酸化窒素合成阻害薬の投与では有意な保護効果が認められなかったが、非ステロイド系抗炎症薬投与によって、障害の軽減効果が認められた。 一過性虚血による障害モデルでは、一酸化窒素合成阻害薬の投与で障害の軽減効果を認め、両障害の発生機序の違いが示唆された。グルココルチコイド投与では著明な障害の軽減効果が認められたのと同時に虚血負荷後の投与でも改善が認められるという結果だった。 強大音あるいは一過性虚血は蝸牛に障害を与えることがわかっているが、その機序は未だに明らかになっていない。両障害因子に対する薬剤の保護効果を確認し、そこから障害の機序を解明していくために、更なる検討が必要と考えられた。 少なくとも、これまでの研究結果から示唆されることは、虚血の際にはその後に引き続き再還流が起こることで、スーパーオキサイド類の発生と一酸化窒素の産生による障害が並行して起こり、いずれの経路の阻害薬も一定の保護効果が得られたと考えることができる。一方で、強大音による障害では、一酸化窒素は主な障害原因ではなくサイクロオキシゲナーゼ等の系を介した炎症の悪循環が振動の物理的障害に加えて関与していると考えられた。
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