研究概要 |
感音難聴原因遺伝子の分子モーターであるミオシンVIIA遺伝子変異を,遺伝性非症候群性感音難聴者ならびに原因不明の感音難聴者において同定する研究を行った。53家系82症例の原因不明の遺伝性両側性感音難聴症例を対象にした。ミトコンドリア遺伝子3243変異が2家系において同定された。ミオシンVIIA遺伝子変異は同定されなかった。ミオシンVIIA遺伝子変異が既知のDFNA11家系において,純音聴力検査,語音明瞭度検査,耳音響放射を測定した。その結果,全例が左右対症性の両側感音難聴を呈していた。オージオグラムのパターンは,高音漸傾型あるいは平坦型であった。1年に平均0.2から2.1dBの聴覚閾値の悪化がみられた。耳音響放射は全例で同定されなかった。最高語音明瞭度は,平均純音聴力が50dBより良好であれば良好,平均純音聴力検査が60dBを越えると,70%以下に低下していた。3症例に聴性脳幹反応検査を施行し,2症例で第I波の潜時延長、1症例で第V波の潜時延長を認めた。5症例で温度眼振検査を施行し,3症例は前庭機能の低下が同定された。3症例は自発眼振がみられたが,いずれの症例も自覚的にめまいを訴えなかった。ミトコンドリア遺伝子3243変異が同定されているMELAS症候群の側頭骨組織から,ミトコンドリア遺伝子変異3243を検出した。同症例の病理組織学的研究では,蝸牛血管条とラセン神経節細胞の変性を証明した。興味深い点は,蝸牛内・外有毛細胞は比較的良好に保存されていた。一方,前庭では半規管ならびに耳石器共に高度の感覚細胞の消失がみられた。ミトコンドリア遺伝子3243変異による内耳組織変化の報告としては世界で初めてであり,遺伝子変異がどのような内耳の組織学的変化を生じさせるのか貴重なデータである。
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