動物の嗅覚関連神経細胞は再生能力を有する特異な神経細胞である。実際動物実験においては嗅神経切断後約1ヵ月で速やかに嗅上皮内の嗅細胞は再生することが知られている。また最近では側脳室傍より幹細胞が嗅索を経て嗅球内に移動する報告もみられる。 今回我々は嗅上皮及び嗅球内における分裂細胞(幹細胞)の同定とその起源及び動態について検討した。Bromodeoxyuridine(BrdU)にて標識した分裂細胞を抗BrdU抗体で、同定し、その局在及び数の計測を行い、また神経細胞のマーカーとして、Neural Cell Adhesion Molecule(N-CAM)、Protein Gene Product 9.5(PGP9.5)、CalbindinD 28Kなどの蛋白に対する抗体を用いて各採取標本における神経細胞の同定を行い、これら抗体とさらに上述の抗BrdU抗体の組み合わせによる免疫組織化学二重染色により、分裂細胞の神経細胞への分化の様子を観察した。嗅上皮内では基底細胞の直上に存在する細胞が幹細胞(前駆細胞)であり、確かに二重染色により嗅細胞に分化していることは従来通りであった。一方嗅球内にもBrdUにて標識される細胞は存在することが分かった。これらの細胞は嗅球に向かって移動、約1週間で嗅球の中心に到達し、その後周辺へと拡散、グリア細胞や神経細胞に分化することがわかった。 線維芽細胞増殖因子は嗅上皮内の分裂期細胞を増加させることが分かった。この増加した細胞のその後の動態については不明な点もあるが、少なくとも嗅細胞の増殖活性に大きな影響をあたえていることが分かった。
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