老化遺伝子Klothoノックアウトマウスは、ヒトの様々な老化徴候を示すモデルマウスである。同マウスの聴覚機能について聴性脳幹反応(ABR)を用いて検討した。同マウスの老化徴候は生後4週より発現してくることが知られているが、聴覚低下に関しても、生後4週の段階でABR閾値の上昇が確認された。聴力経過としては、死亡する8週まで徐々に進行する聴力低下が認められた。内耳性難聴であるかどうかを確認する目的で、微小ガラス管電極により内リンパ電位の測定を行ったところ、同電位の低下が確認された。同マウスの難聴の発症には、血管条における内リンパ電位の形成不全が原因であると推察された。 同マウスにおける内耳性難聴の発症機構を検討するため、同マウス内耳の形態学的、分子生物学的な解析を進めた。光顕レベルでの観察では、内耳蝸牛内に聴力低下を説明できる組織学的変化は認められなかった。内耳でのKlotho遺伝子の発現を免疫組織化学法およびPCR法により検討したところ、同遺伝子ノックアウトマウスはもちろん、正常マウスの内耳においても同遺伝子の発現が確認できなかった。 以上の結果から、Klotho蛋白は、体液性因子として血流により内耳へ到達し、血管条の標的細胞あるいは標的遺伝子に影響を与えることで、内リンパ電位の形成・維持に重要な役割を果たしていることが推察された。
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