本研究はまず頭頸部癌の生物学的特徴を調べることにより、個々の腫瘍特性に合う治療の方向付けを探ることを第一目的とした。アポトーシス制御因子のひとつであるbc1-2 familyのうちMCL-1(myeloid cell leukemia-1) mRNAは、正常粘膜に比べ腫瘍組織において発現が高い傾向にあった。頭頸部扁平上皮癌において、MCL-1の発現が細胞の悪性化や放射線療法、化学療法に対する感受性に関連している可能性が示唆された。Kruppel型zink finger遺伝子のHKR1遺伝子は扁平上皮癌組織において化学療法、放射線療法を中心とした治療歴を有する群では未治療群に比べてHKR1の発現が有意に高く認められた。このことは、HKR1遺伝子産物あるいはこの発現上昇に関わるシグナル伝達経路が、癌細胞の治療抵抗性獲得に関与している可能性が示唆された。同様にKruppel型zink finger遺伝子であるZK7にも着目した。ZK7蛋白は、血液細胞においてVEGFによるアポトーシス阻害に関与している可能性が示唆されている。頭頚部扁平上皮癌組織においては、白金製剤による化学療法、放射線療法を中心とした治療歴を有する群では、未治療の群に比べZK7遺伝子の発現が有意に高かった。また、同一症例で治療前後の癌組織を得ることが可能であった全例において、治療後の発現上昇が認められた。SCC-TF野生株とZK7導入SCC-TF株にシスプラチン及びγ線暴露を行ったところ、ZK7導入SCC-TF株では野生株に比べてシスプラチンやγ線に対する感受性が有意に低下していた。以上の結果から、ZK7の遺伝子産物あるいはこの発現上昇に関わるシグナル伝達経路が、癌細胞の治療抵抗性獲得に関与している可能性が示唆された。
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