研究概要 |
1 前庭障害に対する薬剤効果 1)ATPの内耳直接投与が前庭機能に及ぼす短期的効果を、前庭障害を有するモルモットを用いて実験的に検討した。 モルモットの右側外側半規管を手術的に切断し、リンパ液を2秒間吸引して同部を被覆することで、末梢前庭障害を作製した。障害作製直後より、浸透圧ポンプを用いて蝸牛基底回転鼓室階に、ATPを持続注入した。処置前後に台形方式回転検査を行い、眼球運動を暗所開眼下で赤外線CCDカメラで観察しVTRに録画して、回転後眼振を解析した。 ATPはコントロールに比べて処置後の回転後眼振の回復を有意に早めた。この作用は、ATPのP2Xレセプターをブロックしても認められた。ATPは、末梢前庭障害の急性期に直接内耳に投与することで、前庭機能の左右の不均衡を早期に是正し、その作用はP2Xレセプターを介した作用ではない可能性が示された。 2)ステロイドの内耳直接投与が前庭機能に与える長期的効果を同様のモデルを用いて検討した。前庭機能評価法は、振子様回転検査で前庭眼反射の利得(VOR gain)を計算して行った。障害直後よりベタメタゾン1mg/mlを浸透圧ポンプで1週間投与後、ポンプ、カニューレを抜去した。障害後1,4ヶ月目の前庭機能を評価した。ベタメタゾン投与により、4ヶ月後には有意にVOR gainの回復を認めた。ステロイド直接内耳投与は、長期的にも前庭機能の左右差を是正することがわかった。 2 前庭機能評価法の確立 動物モデルの前庭機能を、より高精度に解析するために、画像解析システムに改良を加えて、眼振の最大緩徐相速度を算出するシステムを開発した。最大緩徐相速度が、回転後眼振数と概ね相関することを確認し、さらに最大緩徐相速度から前庭眼反射利得(VOR gain)を算出できるシステムを立ち上げた。これを用いることで、非侵襲的に動物モデルの前庭機能が評価可能となり、今後種々の薬剤の前庭機能に与える影響を精度高く研究できることとなった。
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