まずクロトーマウスの形態を加齢に伴って観察し、さらにPAS染色を行った。同週齢の野生型マウスと比較してクロトーマウスの内耳骨組織で骨化が不十分な部位を認めた。コルチ器、クプラや前庭については著明な形態的変化は認めなかった。光顕レベルのPAS染色で本来PAS陽性部位である蓋膜やライスネル膜、血管基底膜などの部位に加えて血管条毛細血管の基底膜やその周囲ににじみ出たような粒状の沈着物を認めた。電顕レベルでのPAS染色では血管条毛細血管内皮細胞や基底膜にPAS陽性反応を認め特に内皮細胞には電子密度の高い粒状沈着物に似た反応を認めた。このPAS陽性反応は腎臓を含め他臓器の血管壁にも認めた。これらは野生型マウスでは認められず複合糖質を多量に含有した石灰化を生じていることも推測される。 さらにクロトーマウスと同週齢の野生型マウスで両者のEP(蝸牛内静止電位)と内リンパ中カリウム濃度を測定した。EPは80.9±7.21mVと96.9±7.7mV、カリウム濃度は209.7±20.4mMと207.2±26.2mMであった。内リンパは特異な高カリウムイオン・低ナトリウムイオン濃度をもつにもかかわらず、内外リンパ間には+80〜100mVにも及ぶ直流電位勾配差がある。加齢に伴ってEPが減少することは知られており、今回のクロトーマウスのEPも同週齢の野生型マウスのEPより有意に低下を認めた。またクロトーマウスの内リンパ中のカリウムイオン濃度は同週齢の野生型マウスのものとほぼ同じ濃度であった。従って内耳に関しては、クロトーマウスは加齢に伴う感音難聴モデルとなりうる可能性が示唆された。
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