平成12年度に実験システムを構築し、平成13年度はサルを対象として、前方向の等加速度直線運動(0.1〜0.5g)によって誘発される前庭性vergenceに対する広い視野刺激(RD: random-dot patten、視野角69deg)と小さい視標(FT: fixation target、視野角0.3deg)の効果についての実験を実施した。新たに得られた知見は以下のとおりである。 1.前方向の直線運動によって潜時4〜6msのdivergence、続いて潜時約10msのconvergenceが誘発され、潜時やvergenceの大きさが直線加速度の大きさに依存することから、前庭性vergenceと考えられた。 2.RDは前庭性convergenceを増強する効果があり、その潜時は約45ms(0.4g以上)で、直線加速度が小さくなるにしたがって長くなった。 3.FTは前庭性convergenceを増強する効果があり、潜時は直線加速度の大きさに関わらず約70msであった。 4.RDはFTより前庭性convergenceを増強する効果が大きかった。 以上より、前方向の直線運動によって、(1)前庭性divergence、(2)前庭性convergence、(3)大きな視野刺激によるconvergence、(4)小さな視標によるcoonvergenceの順でvergenceが出現した。(2)は(3)、(4)によって増強されるが、その潜時や大きさは異なった。これは(3)と(4)では中枢神経機構が異なる可能性を示唆している。 2〜4の内容を2001年のNew York Academy(Cleveland)およびNeuroscience Meeting(San Diego)にて発表し、現在論文投稿準備中である。 また、1の超短潜時の前庭性divergenceは予想外の現象であったが、(1)加速度信号を通常の積分ではなく微分する情報処理神経機構が存在するという仮説、(2)耳石器から前庭神経核をバイパスして直接外転神経核に達する神経経路があるという解剖学的報告、から考えると十分可能性があり、現在本研究をさらに発展させた実験を実施している。
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