研究概要 |
網膜芽細胞腫蛋白(Retinoblastoma protein=pRb)は細胞周期制御における重要な蛋白である。pRbはE2F転写因子に結合して活性を抑制することによってG1期からS期への細胞周期移行を負に調節する。ヒトパピロ・マウイルス16型のE7蛋白(E7)はpRbと結合し不活化するが、そのメカニズムは2つ報告されている。一つはpRb-E2F結合の阻害であり、もう一つはpRb分解である。本研究の目的は培養頭頸部上皮細胞(HLEC)のFas受容体(Fas)依存性アポトーシスに対するE7発現の効果を調べることであった。Fas感受性細胞では、FasとFas-ligand(FasL)の結合によって誘導されるアポトーシス効果が抗Fas抗体がFasに結合することによっても観察される。我々は、抗Fasモノクローナル抗体(CH11)で正常HLEC(nHLEC)と6系統のE7発現HLEC(HLEC16E7.1、HLEC16E7.2、HLEC16E7.3、HLEC16E7.4、HLEC16E7.5、HLEC16E7.6)を処理し誘導された細胞死を検討した.全てのE7発現HLECとnHLECはFasを発現し、FasLは発現していなかった。HLEC16E7.4(CH11-resistant)を除くE7発現HLEC(CH11-Sensitive)ではnHLECと比較してCH11誘導性アポトーシスに対する感受性が上昇していた。pRb発現レベルはnHLECと比較し全てのE7発現HLECで減少しており、CH11-SensitiveなE7発現HLECでは野生型p53蛋白の発現レベルが上昇していた。[我々はこれまでに今回CH11-resistantとの結果を得たHLEC16E7.4が継代培養中に自然にp53遺伝子変異(in codon 273 from CGT to CCT)が生じており、CH11-sensitiveとの結果を得た他の5系統のE7発現HLEC p53遺伝子変異(within exon 4to8)は認めなかったことを報告している-Acta Otolaryngol 522:94-98,1996-].これらの結果は、E7の発現はHLECにおけるFas依存性アポトーシスを増強することを示唆している。その増強反応はp53依存性である可能性がある。
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