1)ラット胚発生期内耳における細胞増殖 胎生9.5日ラット胚を、ラット血清中(A)正常、(B)βカテニン遺伝子に対するアンチセンスODN添加、及び(C)同センスODN添加、で全胚培養した。培養27時間後、プロモデオキシウリジン(BrdU;50μg/ml)を培養液に添加、3時間後に胚を固定、パラフィンの連続切片を作成し、耳プラコードにおける細胞増殖を観察した。 培養30時間後の耳プラコードの全細胞数は、(A)1314±244、(B)1042±237(2μM添加)、(C)1339±207(2μM添加)で、アンチセンスODN添加で、対照に比べ、有意に低下していた。BrdUを取り込んでいない細胞の割合は、(A)32.1±6.4%、(B)49.3±14.1%(2μM添加)、(C)29.4±8.4%(2μM添加)で、アンチセンスODN添加で、対照に比べ、有意に増加していた。これらの結果は、ラット内耳発生過程で、耳プラコードに一過的に強く発現するβカテニンの役割の一つは、細胞の増殖を促進させることであることを示唆している。 2)ラット胚発生期内耳における細胞分化 上記1)と同様に、胎生95日ラット胚を全胚培養した。培養54時間後、胚を固定、パラフィンの連続切片を作成し、2H3(抗ニューロフィラメント抗体)で染色し、耳プラコードにおける細胞分化を観察した。 染色は、耳胞には見られなかったが、聴神経コンプレックスに認められた。(A)、(C)に比べ、(B)では、染色は殆ど見られなかった、これらの結果はβカテニンにより増殖した耳プラコードから遊出してきた細胞が、聴神経コンプレックスの中で、聴神経細胞に分化している可能性を示している。
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