ラット内耳の発生は、菱脳域、ロンボメア5/6に対応する表皮が周囲の組織からのシグナルを受け肥厚することに始まる。表皮は2-3層の細胞層からなる耳プラコードを形成し、体幹内部に陥入して耳ピットとなり、ついで耳胞を形成する。耳胞は表皮から分離し、菱脳に面した壁から内リンパ管が背方に突出し、上方が卵形嚢、下方が球形嚢となる。耳胞の腹域からは聴神経細胞が遊出し、神経堤由来のシュワン細胞・サテライト細胞等とともに聴神経節を形成する。 ラット胚内耳形成過程で、耳ピット内面に一過的にβ-カテニンが多く発現・蓄積されていた。 9.5日ラット胚をβ-カテニン遺伝子に対するアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドを添加したラット血清中で培養することにより、β-カテニンノックダウン胚・胎仔が作成された。それらの胚・胎仔では、耳ピット内面の強いβ-カテニン発現・蓄積が消失していた。 カテニンノックダウン胚・胎仔の耳プラコード、耳ピット、耳胞の総細胞数は対と比べ有意に低下していたが、耳胞の形態形成は対照と同様に進行し、β-カテニンノックダウン胚・胎仔においても外表皮から分離した耳胞が形成された。しかし、顔面・聴神経細胞分化は抑制されていた。 これらの結果は、ラット胚内耳形成過程で耳ピット内面に一過的強く発現するβ-カテニンは、耳プラコード細胞の増殖を促進させ、さらに、増殖した細胞の遊出・移動、及び、聴神経細胞分化促進に関わっていることを示唆している。
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