最初に、ヒト角膜cDNA libraryを用いてヒトCasの同定に成功し、それがラットと蛋白レベルで約80%と極めて相同性が高いことを見出した。次いで、RGDSペプチドが、プラスチックの培養皿上で角膜上皮細胞の接着を阻害しないが、水晶体上皮細胞と網膜色素上皮細胞の接着は阻害することを見出した。また、角膜上皮細胞、水晶体上皮細胞、網膜色素上皮細胞という代表的な眼の上皮細胞が細胞外マトリクス(ECM)を塗布した培養皿上において、RGDSの影響を受けないことを発見した。一方、ヒトの悪性黒色腫細胞は同様の条件において、RGDSから剥離することを発見した。RGDSに対する反応の相違は各細胞におけるインテグリンの発現パターンが異なるからではないかと考え検討した。結果は、角膜上皮ではα5β1インテグリンの発現は低く、α2β1インテグリンの発現が高く、水晶体上皮や網膜色素上皮ではα3β1インテグリンとα5β1インテグリンの発現が高かった。一方、悪性黒色腫細胞は基本的に水晶体上皮や網膜色素上皮と同じ発現パターンを取っており、RGDSに対する反応の違いを説明しうるだけのインテグリン発現パターンは見出せなかった。次に、細胞接着における重要なシグナル伝達系であるfocal adhesion kinase (FAK)からp130^<CAS>にいたる経路がRGDS添加によりどのように変化するかを検討した。結果はRGDS添加により細胞接着が阻害されなかった細胞ではこのシグナル経路に変化を認めなかったが、阻害された細胞では著明な脱リン酸化を認め、このシグナル経路がRGDS添加により阻害されていることがわかった。以上より、FAKからp130^<CAS>にいたるシグナル経路は、眼の細胞および悪性黒色腫の接着に重要な働きをしており、ECMの存在下では眼の細胞がRGDSの影響をうけなかったことから、悪性黒色腫に対する治療標的になりうるのではないかと考えられた。
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