研究概要 |
目的:調節と輻湊の制御モデルによるシミュレーションを臨床症例で検証すると共に,斜視症例における調節異常の実体を調査する。 対象と方法:斜視クリニック通院中の斜位症例と正常被検者合計114名を対象とした。対象者には,両眼開放下,片眼遮蔽下で40cm前方(2.5D)に設置した調節視標を注視させ,生じた調節応答を赤外線ビデオレフラクション装置で測定した。さらに,gradient法によりAC/A比を測定,使用した凹レンズに対する調節応答量を実測し補正することでresponse AC/A比を得た。さらにGaussian視標に対し,各種度数のプリズムを眼前に設置し融像性調節を惹起させ,調節量の変化を赤外線ビデオレフラクション装置により測定,CA/C比を求めた。調節と輻湊の制御系の順応の影響を探るために,2.5Dに設置した調節視標を5分間注視させ,調節レベルの経時的変化を検討した。 結果:斜視症例は2.5Dの調節視標に対し,両眼開放下,片眼開放下で異なる調節反応を示し,両者の差は,眼位ずれの大きさと高い相関を認めた事から,眼位ずれ(斜位)は,調節と輻湊の制御機構の間のクロスリンクを介して,調節レベルに影響していることが明らかになった。内斜位や斜視角の大きい外斜位では,それぞれ大きな調節リードまたはラグの原因となっていると考えられ,このような場合,クリアな像を選択するか両眼単一視を選択するか二者択一の不安定な状況下にあると予想される。また,AC/A比やCA/C比は,眼位と調節の関連性に有意な影響を及ぼしていた。 結論:臨床データは,調節と輻湊の制御モデルによるシミュレーションの結果を支持するものであった。さらに,このような実験結果は,斜視治療の目的が,従来考えられてきた,整容上の目的,または両眼視機能の改善のみでなく,比較的多くの症例で,調節精度の改善という意味を合わせ持つことを示唆するものである。
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