われわれは血管内皮増殖因子(VEGF)を網膜特異的に発現するトランスジェニック・マウス(遺伝子導入マウスrho/VEGF)を開発し、生後5日日頃よりVEGFを網膜の視細胞層において発現し、網膜内に新生血管が発生することを報告してきた。今回この動物モデルをさらに発展させ、Tet-On遺伝子発現システムを用いることによる、網膜におけるVEGF遺伝子の発現をコントロールすることを試み、成人型糖尿病網膜症の動物モデルの開発を試みた。本研究では発現部位を決めるプロモーターとして網膜視細胞特異的なロドプシン・プロモーターを用い、実際に発現させる遺伝子としてVEGFを用いた。2種のトランスジェニック・マウス、すなわちrho/rtTA(ロドプシン・プロモーター/Reverse tetracycline transactivator)トランスジェニック・マウスと、TRE/VEGF(Tetracycline responsible element/VEGF)トランスジェニック・マウスを確立し、さらにこの両方の導入遺伝子をもつダブル・トランスジェニック・マウスを作成した。このマウスにおいては、Tet(テトラサイクリン)を与えることにより、ロドプシン・プロモーターが活性化され、さらにそれに反応してVEGFを網膜において過剰に発現することを確認した。このマウスではTetを与えるまでは網膜は正常に発育し、Tetを与えることにより非常に大量のVEGFを網膜において発現するようになり、網膜内に発生する新生血管はrho/VEGFマウスよりも激しいものであり、牽引性の網膜剥離が観察された。このトランスジェニック・マウスは有用な新しい動物モデルであり、糖尿病網膜症を代表とする眼血管新生の疾患の発症メカニズムの研究や治療方法の開発に大いに役に立つものと考えられる。
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