近年、眼血流を測定できる様々な機器が開発され、緑内障治療点眼薬の血流に対する効果が検討されている。我々は緑内障治療点眼薬の眼血流に対する作用機序を検討した。今回我々が検討した緑内障治療薬の血管作用は、血管を高カリウム溶液で収縮させた状態でこれらの薬剤を投与した際に、どの程度の弛緩作用を持っているかで評価した。 ピロカルピンは高カリウム溶液で収縮させた毛様動脈血管標本を濃度依存性に弛緩させた。この弛緩は一酸化窒素合成阻害剤で抑制され、血管内皮を擦過除去した標本では見られなかったことより、血管内皮からの一酸化窒素(NO)放出が関与していると考えられた。ベタキソロールも毛様動脈を濃度依存性に弛緩させたが、これはこの薬剤の持つカルシウム拮抗薬様の作用のためと考えられた。チモロールは毛様動脈に対してはきわめて弱い弛緩作用しか持っていなかった。β遮断作用に関しては緑内障治療薬の中では比較的強い薬剤であるので、この点からも血管弛緩作用とβ遮断作用が関係のないことが示唆された。ニプラジロールはニトログリセリン様の作用を併せ持っており、薬剤に含まれるニトロ基よりNOを放出するNO-Donorとして血管弛緩作用を有した。ウノプロストンの血管弛緩作用はかなり強力であるが、興味深いことにウノプロストンの代謝物は血管弛緩作用を持たなかった。角膜を通過するときにこの薬剤はほとんど全てが代謝されて代謝物として前房内に存在するため、ウノプロストンが血流を増加させるとすればそれは眼球内に存在する代謝物としてではなく、眼球内に入らず眼球を迂回して後眼部に達した非代謝物としてであると考えられた。この薬剤の血管弛緩は細胞外のCa流入阻害によると考えられた。 このように各種緑内障治療薬はその多くが血管弛緩作用を有しているが、その作用機序は様々である。そして眼圧下降作用とは基本的に関係がなく、それぞれの薬剤の持つ、眼圧下降作用とは異なる作用によって血流に影響を与えていることが示唆された。正常眼圧緑内障の治療において、既存の緑内障治療薬は眼圧下降という目的からは十分な効果は持っていない。このような薬剤の眼血流に対する効果はこの意味から臨床上重要と思われる。
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