研究概要 |
緑内障手術の成否を決める主な要因に,線維芽細胞増殖による流出路閉塞がある.我々はこの過程に深く関わるFGF-2と結合する未知分子FAPの遺伝子を,酵母two-hybrid系を用いて単離し,その役割の解析を進めている. 1.FAPの発現と分布 RT-PCR,ウエスタンブロットや免疫染色で,FAPはテノン嚢由来培養線維芽細胞をはじめ様々な培養細胞や正常臓器に発現していた.しかし,ある種の培養細胞ではFAPのmRNAは検出されたがタンパク質は検出されなかった.これらの細胞のFAP遺伝子に変異があるか,FAPの翻訳に調節機構があるのではないかと考え,現在解析中である. FAPは,免疫染色によりある種の細胞で細胞骨格様の分布を示した.そこで,抗FAP抗体と抗チュブリン抗体の2重染色を行なったところ,一部のFAPがチュブリンと重なって見えた.また,一部の細胞では両者の分布がほぼ一致して観察された.しかし,細胞核分裂時の紡錘糸へのFAPの共存を調べたところ,核分裂時にはFAPは細胞膜付近の細胞質に分布していた.これらのことから,細胞周期によってFAPはチュブリンと結合・解離するのではないかと推測し,タキソール法で集めた微小管分画のFAPの存在を調べたが,微小管分画へのFAPの有意な集積は検出できなかった.そこで,様々な細胞周期阻害剤の使用時におけるFAPの分布について解析を計画している. 2.線維芽細胞の増殖に及ぼすFAPの影響 FAPのアンチセンスオリゴヌクレオチドをヒト培養線維芽細胞の培地に添加した.免疫細胞染色およびウエスタンブロットでFAPの発現を調べたが,アンチセンスオリゴヌクレオチドによるFAP発現の有意な抑制効果はなかった.また,有意な細胞増殖抑制効果も認めなかった.そこで,FAPのアンチセンスプラスミドの導入や,FAPの発現を調節可能なプラスミドの導入を予定している.
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