研究概要 |
哺乳動物のレンズ上皮細胞(LEC)は未成熟な細胞で、長期間レンズ繊維細胞への分化能を維持している。この性質に関するカプセルや隣接の細胞との接着を介したシグナルの役割を明らかにするためにLECの組織内及び培養系における細胞外マトリクスや細胞接着因子の遺伝子発現を比較した。 ECMではコラーゲンI,II,III,およびIV型、ファイブロネクチン、ラミニンの各遺伝子発現を調べた。コラーゲンIV型とラミニンのmRNAは培養継代に伴って発現が減少した。一方コラーゲンI型とファイブロネクチンのmRNAは培養継代に伴って急激に増加した。この変化はLECの増殖による繊維芽細胞様変化を裏付けるものと考えられる。またIN VIVOのLECの特徴であるIV型の発現低下は、継代を重ねるに従って不定形のレンズ様の構造(レントイド)形成能が低下する現象と相関すると考えられる。インテグリンの二つの亜型、α5β1(ファイブロネクチンの受容体)とα6β1(ラミニンの受容体)の発現を知るためにα5とα6との遺伝子発現を調べた。両者とも組織中の細胞では発現が検出されずに、培養により発現が現れた。一方、E-カドヘリンとN-カドヘリンは共に組織中で発現しているが、培養中に減少傾向を示した。 レンズの分化で見られる脱核はアポトーシスの一形態と考えられているが、成人のレンズ切片で、赤道面近くのLECでDNAの断片化が観察され、内側に50層以上の繊維細胞核がTUNEL陽性を示し、他の細胞には見られない現象であることが示唆された。
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