小児外科領域において、二分脊椎症や脊髄腫瘍に伴う神経因性膀胱は、閉塞性尿路障害および膀胱尿管逆流現象の合併による進行性の腎機能障害に加え、尿失禁によるquality of lifeの低下等深刻な問題をかかえている。現在臨床の場において、神経因性膀胱に対する治療法として、胃、小腸、大腸等の消化管を用いた膀胱拡大術が施行されており、荒廃し伸展性を失った膀胱の容量を増加させることが本症患児の腎機能の温存および尿失禁に対して有用であることが報告されている。しかしながら、これらの消化管を用いた膀胱拡大術において、長期的に経過観察した場合、粘液分泌に伴う結石形成や繰り返す尿路感染症、発癌、消化液による潰瘍形成および出血等の合併症も問題視されており、新たな治療法の確立が切望される。 近年我々は、神経因性膀胱に対する新しい治療法について検討する目的で、新生仔ラット膀胱を血管吻合を用いずにレシピエントラット大網に移植し、移植片が生着し得ること、さらに、同種移植モデルを用いた検討で、免疫抑制剤(FK506)投与により、膀胱移植における拒絶反応が十分コントロール可能であることも確認している。 今回、生体部分膀胱移植の可能性を考慮に入れ、成獣ラット膀胱を移植片とした膀胱移植において、新生仔膀胱を用いた時と同様の生着率が得られるか否かを検討するとともに、膀胱部分切除術を施行したレシピエント成獣ラットについても術後の評価を行い、その安全性について検討した。その結果、成獣ラット膀胱が新生仔の膀胱と同様に生着し得ることが明らかとなり、また、レシピエント成獣ラットに対する安全性も確認し得た。これらの新しい知見は、国際学会で発表した後、英文誌(Journal of Pediatric Surgery)に掲載予定である。
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