研究概要 |
ヒト乳歯ならびに永久歯に歯肉を付着させたままの状態で抜去し,グルタールアルデヒドによる固定を行った試料について未脱灰超薄切片を作製して,主として透過電子顕微鏡で歯肉接合上皮細胞ならびに歯小皮の部位による微細構造学的特徴の変化について詳細に検討を行った.その結果,エナメル質ならびにセメント質の表面に歯小皮あるいは基底板を介して直接接している歯肉接合上皮の最表層の細胞のうち,特に歯頚部側に位置するものは細胞小器官が乏しく,未発達な細胞形態を呈しているが,その部より歯肉溝側に向かうにしたがつて細胞小器官が豊富になり,いわゆる吸収や分泌を旺盛に行っていると思われる状態が認められるようになっていた.しかし,歯肉溝に近い部位に位置する上皮細胞は,変性し脱落していくと思われる微細形態学的特徴を示すことが明らかとなった.また,そのような部位においては上皮細胞間が大きく離開しはじめる状態も認められる様になるが,依然としてそのような細胞も歯面に付着したままの状態を保持している場合が多いことが確かめられた.したがって歯肉溝の形成は歯面に付着している上皮細胞が歯面から剥離することから始まるのではなく,上皮細胞間で歯肉溝の形成,すなわち歯周ポケットの形成が開始することが電子顕微鏡による観察で証明された.歯小皮は部位によって厚さに差が認められ,なかには歯小皮が形成されず,直接接合上皮が基底板を介して歯面に接着して状態を認めることが出来ることから,歯小皮は必ずしも上皮が歯面に接着するために必要な構造物ではないと思われる状態が認められたことから,歯小皮に関しては上皮付着以外にその存在意義を求める研究が今後さらに必要となることが明らかとなった.
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