歯肉接合上皮の機能と接着機能を究明する目的で、主としてヒトの歯と歯肉接合上皮の形態学的特徴を組織学的ならびに免疫組織化学的見地から検討を行った。歯肉接合上皮は細胞間隙が比較的広く開大している特徴がある。この細胞間隙は物質の通隙路となっている可能性があるといわれているが、上皮細胞の形態、細胞相互間の結合ならびに細胞骨格の状態などを三次元的に観察することによって、これらの細胞間隙は咀嚼時にそこに加わる種々の機械的な刺激に対応する役割も果たしている可能性があることが明らかとなった。接合上皮細胞は細胞の形態の他、細胞小器官、細胞骨格や種々の細胞内構造物の状態に部位特異性が認められる。これらの部位特異性は、接合上皮細胞の発生と分化ならびに顆粒状構造物、細胞間結合装置などの発達の程度、細胞の移動と脱落の過程とも相俟って、接合上皮の付着機能と大いに関連性があることが理解された。歯面に付着している接合上皮最表層の細胞は、全般的にGolgi apparatusをはじめ、種々の細胞小器官がよく発達しており、歯質側の細胞膜に多数の細胞膜湾入や小胞あるいは顆粒状構造物が多数認められることから、この接合上皮細胞は付着機能とも関連し、何らかの物質の合成、吸収ならびに分泌を旺盛に行っていると思われる状態を認めることができた。また、基底板に接している上皮細胞(細胞質と細胞膜)ならびに上皮付着に関与している構造物(hemidesmosomeとbasal lamina)などが、歯小皮を構成する成分の一部となる可能性の高いことが形態学的ならびに免疫組織化学的検索より確認された。歯肉溝を顕微鏡で観察すると、歯肉溝の底部は接合上皮細胞相互間が離開した部位に生じている状態が多く認められ、歯周ポケットの形成と拡大も、接合上皮自体の構造や機能と関連が深いことが明らかとなった。
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