マウス胎児頭蓋冠における遺伝子発現の改変にアデノウイルスベクターを用いるに当たり、胎児頭蓋冠組織におけるコントロールアデノウイルスの感染効率をin vivoで検討した。頭蓋冠の骨単位が骨の石灰化前のマーカーであるオステオポンチンの発現によって同定できる胎齢15日にウイルス液を胎児頭部皮下に注入して48時間後もしくは72時間後に胎児を母獣より摘出してその感染領域を確認した。ウイルスの感染は注入部位周辺の間葉組織に強く、筋肉細胞や真皮にも感染が認められた。しかしながら、骨基質周囲に存在する骨芽細胞、およびそれぞれの骨を連結する縫合と分化する間葉細胞にはほとんど感染が認められなかった。これより、胎齢15日の頭蓋冠で結合組織や筋肉に分化する細胞と骨や縫合に分化する細胞の間葉細胞としての性質が異なっていることが明らかである。胎齢15日以前の線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)遺伝子のin situ hybridization(ISH)の結果から、骨芽細胞の分化は胎齢15日以前に始まっていることが考えられた。これは骨芽細胞系の細胞でのアデノウイルス感染が報告されていることと考え合わせると、骨芽細胞の分化が始まる前であればアデノウイルスに感染する可能性があることを示唆する。そこで現在胎齢13日や14日でウイルス注入を行い、その感染領域を検討中である。 多くのヒト頭蓋骨癒合症では合指症など四肢の異常を伴うことから、発生中のマウス前肢でのFGFRの発現をISHで検討したところ、指の形成領域ではその発現パターンは頭蓋冠と比較的似ており、FGFR2は骨形成が起きている領域で分化度の低い領域に、FGFR1はそれよりもやや分化の進んだ領域に発現が見られた。FGFR3は主に指の軟骨に発現が見られた。現在アデノウイルスベクターを用いた局所的な遺伝子発現の改変が発生中の四肢で可能であるかどうか検討中である。
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