研究概要 |
慢性難治性感染症の発症に関与していると考えられる付着細菌の抗菌薬抵抗性のメカニズムの解明を目的として,本年度は緑膿菌におけるストレス応答系の薬剤抵抗性におよぼす影響について検討し,以下の結果が得られた. 1.緑膿菌PAO1株の付着系および浮遊系細菌に対するカルバペネム系抗菌薬bia-penem(BIPM)のMICおよびMBCを測定した.MICは付着系と浮遊系において差は認められなかったが,付着細菌に対するMBC^<AD>は浮遊菌に比べ128倍の高い抵抗性を示した. 2.浮遊系において,定常期の菌は対数増殖期に比べBIPMに対し高い抵抗性を示した.さらに,定常期蛋白の誘導に関与するrpoS遺伝子の変異株ではこの抵抗性を示さないことから,緑膿菌におけるBIPM抵抗性にはrpoS遺伝子が何らかの関与をしていることが示唆された. 3.浮遊系における熱ショックの抗菌薬感受性におよぼす影響について検討した結果,30℃で培養した菌に比べ43℃培養菌はBIPM添加後の集落形成能が高く,BIPM抵抗性にはheat shock遺伝子が関与していると推察された. 浮遊細菌が固相表面に付着すると菌体内および表層において生理的変化が認められることから,付着時には何らかの遺伝子発現の誘導が起こり,抗菌薬抵抗性にも影響を及ぼしている可能性が考えられる.現在,付着時の抗菌薬抵抗性の低下したbta変異株を分離し,付着とbta遺伝子の発現誘導との関連性について検討中である.
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